■ シュトライン 1


ヘーゼル・シュトラインは根っからの男嫌いだ。
少女時代を全寮制の女学園で過したヘーゼルにとって、男共は得体の知れない気味が悪い物だった。もちろん家族は別であったが。
「何をなさっているのですか。姉さま」
その日、十五になった妹は静かに怒っていた。
「社交界に出るのも貴族の娘の務め。そう母さまもおっしゃっていたではありませんか」
咎める様な視線を受けて、ヘーゼルはペンを置いた。
「分かっているわ、アリシア。けれど断れるなら断りたいと思ってしまうのは仕方がないでしょう?」
「だからといって、片っ端から断って良いわけではありません!」
バンと机に手を突いた妹に姉は長い吐息を付いた。
「あなた――侍女よりも家庭教師よりも口煩いわよ」
不機嫌になった姉にアリシアは唇を結んだ。姉の地雷を踏んだらしいと悟ったためだ。
アリシアは姉が好きである。
けれど貴族の娘として、シュトライン家と長女が嫁ぐのはほぼ領土外である事も理解していた。一度嫁いだが最後、姉はもうそうそう会えない所に行ってしまう。
「姉さま。それでも私達はいつか誰かに嫁がねばならないのですわ」
貴族同士の結婚に本人達の意思が反映されることは少ない。だから本当は今のうちに少しでも姉には幸せな思い出を作ってほしかった。