■ シュトライン 3

「それで、何でしょうかお父様」
単刀直入なヘーゼルの言葉に、しかし父は目線を庭園に向けたままだった。
「綺麗だな」
ヘーゼルは無言を保った。此処で答えてしまえば、決意が揺らぐ。
特に、二人とも話したく話題ならばなおさら。
紅茶から湯気が上がっている。
「……父様」
「エインズワース家の長男だ」
「っ、五大貴族に私が……」
「そうなる」
名誉にも関わらず父は悲しそうな顔をしていた。それもそのはず、五大貴族と言えば最も暗殺や変死の多い、まさに人の業に塗れた世界だ。
絶句した娘の手を取り、父親は自身の手で包み込む。動揺したその手は小刻みに震え、そして冷え切っていた。
「幸い、君は一人目だ。寵愛を受ける可能性も高い」
「…」
笑え。
「対面は来月の半ばになっている」
「……はい」
ヘーゼルは、何とか笑った。