■ シュトライン 6

対面はなぜかシュトライン邸で行われた。当たり前のように五大貴族であるエインワースの方だろうと思っていたシュトライン側は、領主である父も含め大いに驚き、そして喜んで迎えた。
「お会いできて光栄です。ハウエル・エインワースです」
柔らかそうな金の髪に青い目。相手はなかなかの美男子だった。
「父のボニフェース・シュトラインです。そしてこれが」
「ヘーゼル・シュトラインです。こちらこそ、お会いできて光栄ですわ」
父も似たような事を思ったのだろう。嬉しそうに席を勧めた。
趣味、それについての賛辞、シュトライン側の風土や文化。社交界用の笑顔を貼り付けたまま、三人の会話は続いて行く。わざとらしく父が席を立った所で、ヘーゼルは聞きたかった事を訊ねることにした。
「ハウエル様はこの結婚をどうお考えですか?」
「どう、とは?」
ハウエルは笑ったままで聞き返した。
「申し訳ありませんが、私はその返し方はあまり好きではありませんの」
「すみません。では当ててみましょう。ヘーゼル様は何故五大貴族がシュトライン家にとお思いですか?」
「…はい」
ヘーゼルの返事に、面白そうにハウエルは手を組んだ。
「正直ですね。実は私も、それを不思議だと思っていたのですよ」
「思っていた?」
ヘーゼルの目が訝しげに細められる。
「ええ。けれど原因は突き止めましたから、もう問題はありません」
「それは…いえ」
口に出しそうになった言葉を途中で止める。これ以上はヘーゼルが聞く必要のない事だった。いずれ必要と判断されるか、聞きだせるほどの関係を築く事になれば知らされるだろう。
ハウエルが静かに席を立つ。
「貴方に危害が加わる事はありません。ここれはもうただの結婚ですよ」
「ただの…」
ハウエルがヘーゼルの前に跪く。
「ええ、お会いした時から目が離せないのです。どうか、私の妻になってはいただけませんか?」
陳腐な言葉。内心で苦笑する。どう聞かれようと、どんな人物あろうとも、ヘーゼルの答えは1つしか用意されていないのだから。



「では、それなりにつりあうわけですね」
こそこそと話すのは妹と父。妹はふーと息を吐き出した。
「ああ、中身もなかなかだった」
「それだけは油断できませんわ、お父様。結婚する前に出来るかぎり対処法を考えておかねば」
「まるで、侍女長の様だな」
「……どうせ、私はそうですよ」
「こら、冗談だよ」
「冗談に聞こえません」