■ シュトライン 7

シュトライン家の城がある街、ワイルラードは領地の中でも最も豊かな所だ。
首都にあるシュトライン邸から帰ってきたヘーゼルは、山越えをする馬車の中から城を眺めた。
光を反射してきらきらと輝く青い海、聞こえてくる汽笛の音、茶色い家々の屋根。
半年ぶりのそれらは懐かしく、けれどこんな状況でなければさらに嬉しく感じたのにと残念に思った。



病気がちの母はヘーゼルが部屋に訪れると、とても嬉しそうに娘を抱きしめ、そして結婚についてのお祝いを口にした。
相手の印象を聞かれたので、やわらかい金髪に青の目のとても頭の良さそうな人だと答える。実際はどうだか知らないが、此処まで生き残っているのだから悪くはないはずだ。

『どうか、私の妻になってはいただけませんか?』

「ヘーゼル?」
「…え?」
おやと母は心配そうな顔をした。
「ごめんなさいお母様。少し、疲れたみたいです」
「そうね。私も少し興奮しすぎたみたいね」
母をベッドに横たわらせて部屋を出ると、部屋の外に立っていた者と目が合った。
「お母様はお休みになったわ」
「かしこまりました。姫?」
「なに?」
「少し顔色がわるいようですが」
「大丈夫よ、少し疲れただけだから」
「山道に酔われましたか」
「そうみたいだわ」
疲れた理由はこの繰り替えす思考のせいだろうけれど。

「…夕食まで一人にしてちょうだい」
「かしこましました」



夕食は、久しぶりに母が席に着いたこともあり話が弾み、時間はすぐに過ぎていった。
「姫、寒くはありませんか」
湯浴みをして温まった体でベランダに出たヘーゼルに彼女の騎士はそう尋ねた。
「大丈夫よヒース。見て、月が綺麗よ」
何処でも同じ月の光。なのになぜだろう、ワイルラードで見る月が懐かしく見える。
風が吹き、さわりと庭の木々がゆれる。
月にしか照らされない木々は黒々として、まるで部屋の光に照らされる私を責めているようだ。
ふわりと金の。
「…姫?」
「…やっぱり寒いわヒース。戻りましょう」
気づけばすっかり冷え切った足に、部屋の絨毯はとても気持ちよかった。